2006年07月18日(火)
富士屋旅館~87番長尾寺~88番大窪寺~帰郷
歩数:38114歩 移動距離:24.8km
いよいよ今日は最終日、結願の日だ。
人によっては88番から1番に戻り、更に高野山へ足を伸ばす人もおられるようだが、私は今回は88番で終わりとした。高野山には妻と以前行った経験があるので、これは当初から除外して考えた。1番まで戻るかどうかはその場になって考えようと思っていたのだが、歩いているうちに88番を打ったところで「やった、終わった」という感激を得たいという思いが強くなった。88番を打った後、1番まで行かなければならないという思いがあると「やった!」という感激が分散されるように考えたのだ。人によって考え方が違うと思うのでどれが正しいとは言えないが、私の場合は今回は88番で終わりにしようと数日前から心を決めていた。
ここまで歩いてきて迎える結願の日、できることならば少しでもいい状態で迎えたいと願う。
まず何よりも天候。今日の予定距離は20km強。カンカン照りのもとではかなりきつい距離だろう。雨が降れば身体の面では楽だろうが、びしょぬれになってたどり着くのもなんとなく避けたい気持ちがある。前日の天気予報では雨、それも梅雨前線が活発化してかなり本格的な雨が予想されるというものだった。天候は人間の力ではどうにもならないので、後は天に願うしかない。
朝、目覚めてすぐにカーテンを開け外を見た。曇り空だ。歩くには最高の条件だ。
7時に宿を出発。志度寺の横を通ると後は長尾寺まで平坦な一直線だ。
8時40分87番長尾寺に到着。1時間40分、11330歩。
ここで郵便局を探しお金を下ろす。実は今朝宿代の清算をしようとして何気なく財布の中身を見ると、3万円しかないことに気がつく。今日の進み具合如何では最悪もう一泊した後、帰るということにもなりかねない。帰りの交通費まで含めて考えるとちょっと心もとない。会社での資金繰りは常にきちんと対応してきた自信があるが、自分の事に関してはこのていたらく。それでとりあえずお金を下ろして帰り着くまでの不安がないようにしておく。
いよいよ88番へ向けて歩き始める。幸いにして曇り空が続いており歩きやすい。このままの空模様が続くことを祈りながらひたすら歩く。途中前山ダムのところにおへんろ交流サロンがあったので立ち寄り、女体山越えの遍路道は現在通行止めになっており、3号線を行ったほうがいいということを聞く。このサロンから88番まで3号線で行くと11kmほど、登りを計算に入れてもこの天候では2時間半ほどで行くことができるはずだ。十分余裕がある。
すぐ横に道の駅があったので、途中のコンビニで買ったパンを昼食として食べる。遍路旅最後の食事だ。
3号線は登り坂が続くが、車道なのでそれほど急な坂ではない。順調に距離をこなしていく。やがて大窪寺まで6kmの標識が見えてくる。あと1時間ちょっとだ。もうこうなったら休みはとらないで一気に行こうと心に決める。
大窪寺まで2kmの標識を見た時、思わず「ヨッシャ!もうちょいや!」という言葉が口をついて出る。気持ちが昂ぶってくる。歩くスピードがどんどん早くなってくる。まさにラストスパートだ。やがて正面に工事中のトンネルが見えた。大窪トンネルと書かれている。大窪寺の大窪なのでもうすぐだなと思いながら道を左に曲がり、坂道を登るとお寺が見えた。88番大窪寺だ。ついにきたぞ!大きな声で叫びだしたいような気持ちになる。「四国遍路結願所」と書かれた石柱が立っている横の階段を登っていく。ここは大師堂だった。
87番から3時間50分、26784歩の距離だ。
これまでのお寺ではまず本堂に参拝し、次に大師堂に参るという順番できたが、88番では一番最後に本堂に参ることにしよう、そこでは座り込んでもいい、一時間でも二時間でもゆっくり時間をかけて結願の喜びを味わうようにしようと決め、まず大師堂からお参りをする。粛然とした気持ち、背筋を伸ばして般若心経を唱える。
さていよいよ本堂だ。坂を少し下ったところに本堂はある。遍路旅の最終局面、クライマックスがきたのだ。
本堂の前では団体客がきており、本堂をバックに記念撮影をしていた。添乗員らしき人が何かを言い、それにつられて皆が大きな声で笑っている。ちょっと雰囲気がちがうぞ、と思ったがそのままその横を通り抜けて本堂に入り、正面の大きな賽銭箱の前に立つ。ついに来たのだ!ここが88番の本堂か、そう思いながら妻の写真を取り出して胸の前に掲げ、般若心経を唱えようとした。その時下のほうから「は~い、みなさ~ん、記念撮影が終わりましたので、これから本堂に行ってお参りをしましょうね」と言う大きな声が聞こえてきた。「ありゃ」と思ったがどうすることもできない。とりあえずお経をあげようと唱えていると人が近寄ってくる気配がし、左右からお賽銭が盛んに投げ込まれる。お賽銭箱の真ん前にいるのだからしかたがないのだが・・・・・・・・・
気が散る。
お経を唱え終わる頃、周囲が静かになった。皆さんがお賽銭を投げ終わったのだろう。そっと薄目を開けてみるとなんとなく横から視線を感じる。そちらのほうを見ると一人の男性がこちらを見ている。反対側を見るとそちらにも参拝者がいる。私を取り囲んで団体客が立っているのだ。そして私のお参りが終わるのを待ってくれているようなのだ。とても行き届いた心配りに有難いと感謝をしたが、なんとなくせかされているような気がしてゆっくり時間を掛けて参拝をしようという気持ちはなくなってしまった。今になって思えば自分が移動して静かに思いにふけることができる場所に行けばよかったのだが、その時はそんなことを考える余裕もなかったようだ。しかたがないのでそこを出て納経所に行き、納経をしてもらう。団体客は本堂で声をそろえてお経を上げている。納経所で菅笠と杖を引き取っていただくようにお願いをし、御礼のお金を渡したりしているうちに団体客は大師堂へ移っていった。本堂は誰もいなくなり、静かである。そこでもう一度本堂に戻り、先ほどと同じ場所に立ってみたが、もう気持ちは切れており何の感動も起きない。あぁこれで今回の旅は終わったのだ。なんともあっけない終わり方だが、ある意味今の私に見合った終わり方かもしれない。
まぁそんなものだよ、という声が聞こえるようである。ただ、同行三人、最低限の目標であった無事に結願を遂げることができたということだけは事実として残すことができた。
時計を見ると13時20分。13時30分にコミュニティーバスというのが出発し百円でJR志度駅まで行ってくれるということだ。
あわててバス乗り場へ行くと丁度バスが来たところだったので飛び乗る。乗客は2名しかいない。汗でびっしょりになっていたので、バスの中で裸になりシャツを着替えさせてもらう。なんともあわただしい終わり方ではあるが、せっかちな私らしいものかもしれない。JR志度駅までバスでわずか一時間で着いた。一日がかりで歩いてきたのにこんなに早く着くのか、あまりにもあっけない。丁度お寺で味わったあっけなさと同じ感覚だった。
いよいよ今日は最終日、結願の日だ。
人によっては88番から1番に戻り、更に高野山へ足を伸ばす人もおられるようだが、私は今回は88番で終わりとした。高野山には妻と以前行った経験があるので、これは当初から除外して考えた。1番まで戻るかどうかはその場になって考えようと思っていたのだが、歩いているうちに88番を打ったところで「やった、終わった」という感激を得たいという思いが強くなった。88番を打った後、1番まで行かなければならないという思いがあると「やった!」という感激が分散されるように考えたのだ。人によって考え方が違うと思うのでどれが正しいとは言えないが、私の場合は今回は88番で終わりにしようと数日前から心を決めていた。
ここまで歩いてきて迎える結願の日、できることならば少しでもいい状態で迎えたいと願う。
まず何よりも天候。今日の予定距離は20km強。カンカン照りのもとではかなりきつい距離だろう。雨が降れば身体の面では楽だろうが、びしょぬれになってたどり着くのもなんとなく避けたい気持ちがある。前日の天気予報では雨、それも梅雨前線が活発化してかなり本格的な雨が予想されるというものだった。天候は人間の力ではどうにもならないので、後は天に願うしかない。
朝、目覚めてすぐにカーテンを開け外を見た。曇り空だ。歩くには最高の条件だ。
7時に宿を出発。志度寺の横を通ると後は長尾寺まで平坦な一直線だ。
8時40分87番長尾寺に到着。1時間40分、11330歩。
ここで郵便局を探しお金を下ろす。実は今朝宿代の清算をしようとして何気なく財布の中身を見ると、3万円しかないことに気がつく。今日の進み具合如何では最悪もう一泊した後、帰るということにもなりかねない。帰りの交通費まで含めて考えるとちょっと心もとない。会社での資金繰りは常にきちんと対応してきた自信があるが、自分の事に関してはこのていたらく。それでとりあえずお金を下ろして帰り着くまでの不安がないようにしておく。
いよいよ88番へ向けて歩き始める。幸いにして曇り空が続いており歩きやすい。このままの空模様が続くことを祈りながらひたすら歩く。途中前山ダムのところにおへんろ交流サロンがあったので立ち寄り、女体山越えの遍路道は現在通行止めになっており、3号線を行ったほうがいいということを聞く。このサロンから88番まで3号線で行くと11kmほど、登りを計算に入れてもこの天候では2時間半ほどで行くことができるはずだ。十分余裕がある。
すぐ横に道の駅があったので、途中のコンビニで買ったパンを昼食として食べる。遍路旅最後の食事だ。
3号線は登り坂が続くが、車道なのでそれほど急な坂ではない。順調に距離をこなしていく。やがて大窪寺まで6kmの標識が見えてくる。あと1時間ちょっとだ。もうこうなったら休みはとらないで一気に行こうと心に決める。
大窪寺まで2kmの標識を見た時、思わず「ヨッシャ!もうちょいや!」という言葉が口をついて出る。気持ちが昂ぶってくる。歩くスピードがどんどん早くなってくる。まさにラストスパートだ。やがて正面に工事中のトンネルが見えた。大窪トンネルと書かれている。大窪寺の大窪なのでもうすぐだなと思いながら道を左に曲がり、坂道を登るとお寺が見えた。88番大窪寺だ。ついにきたぞ!大きな声で叫びだしたいような気持ちになる。「四国遍路結願所」と書かれた石柱が立っている横の階段を登っていく。ここは大師堂だった。
87番から3時間50分、26784歩の距離だ。
これまでのお寺ではまず本堂に参拝し、次に大師堂に参るという順番できたが、88番では一番最後に本堂に参ることにしよう、そこでは座り込んでもいい、一時間でも二時間でもゆっくり時間をかけて結願の喜びを味わうようにしようと決め、まず大師堂からお参りをする。粛然とした気持ち、背筋を伸ばして般若心経を唱える。
さていよいよ本堂だ。坂を少し下ったところに本堂はある。遍路旅の最終局面、クライマックスがきたのだ。
本堂の前では団体客がきており、本堂をバックに記念撮影をしていた。添乗員らしき人が何かを言い、それにつられて皆が大きな声で笑っている。ちょっと雰囲気がちがうぞ、と思ったがそのままその横を通り抜けて本堂に入り、正面の大きな賽銭箱の前に立つ。ついに来たのだ!ここが88番の本堂か、そう思いながら妻の写真を取り出して胸の前に掲げ、般若心経を唱えようとした。その時下のほうから「は~い、みなさ~ん、記念撮影が終わりましたので、これから本堂に行ってお参りをしましょうね」と言う大きな声が聞こえてきた。「ありゃ」と思ったがどうすることもできない。とりあえずお経をあげようと唱えていると人が近寄ってくる気配がし、左右からお賽銭が盛んに投げ込まれる。お賽銭箱の真ん前にいるのだからしかたがないのだが・・・・・・・・・
気が散る。
お経を唱え終わる頃、周囲が静かになった。皆さんがお賽銭を投げ終わったのだろう。そっと薄目を開けてみるとなんとなく横から視線を感じる。そちらのほうを見ると一人の男性がこちらを見ている。反対側を見るとそちらにも参拝者がいる。私を取り囲んで団体客が立っているのだ。そして私のお参りが終わるのを待ってくれているようなのだ。とても行き届いた心配りに有難いと感謝をしたが、なんとなくせかされているような気がしてゆっくり時間を掛けて参拝をしようという気持ちはなくなってしまった。今になって思えば自分が移動して静かに思いにふけることができる場所に行けばよかったのだが、その時はそんなことを考える余裕もなかったようだ。しかたがないのでそこを出て納経所に行き、納経をしてもらう。団体客は本堂で声をそろえてお経を上げている。納経所で菅笠と杖を引き取っていただくようにお願いをし、御礼のお金を渡したりしているうちに団体客は大師堂へ移っていった。本堂は誰もいなくなり、静かである。そこでもう一度本堂に戻り、先ほどと同じ場所に立ってみたが、もう気持ちは切れており何の感動も起きない。あぁこれで今回の旅は終わったのだ。なんともあっけない終わり方だが、ある意味今の私に見合った終わり方かもしれない。
まぁそんなものだよ、という声が聞こえるようである。ただ、同行三人、最低限の目標であった無事に結願を遂げることができたということだけは事実として残すことができた。
時計を見ると13時20分。13時30分にコミュニティーバスというのが出発し百円でJR志度駅まで行ってくれるということだ。
あわててバス乗り場へ行くと丁度バスが来たところだったので飛び乗る。乗客は2名しかいない。汗でびっしょりになっていたので、バスの中で裸になりシャツを着替えさせてもらう。なんともあわただしい終わり方ではあるが、せっかちな私らしいものかもしれない。JR志度駅までバスでわずか一時間で着いた。一日がかりで歩いてきたのにこんなに早く着くのか、あまりにもあっけない。丁度お寺で味わったあっけなさと同じ感覚だった。
旅の地図
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2006年07月18日(火)
プロフィール
歩人
かっちゃん